佐賀県武雄市が、市のウェブサイトの全機能をFacebookページに移行して話題になっています。

「ソーシャルメディアを通して武雄市の認知度を上げ、市民からの声を得られやすいようにする」という市長とアラタナさんの目指すところは素晴らしいです。

ですが、Facebookページを制作・運用している私の視点からは、「今の時点では」勇み足、愚策と思います。
一般企業であるFacebook社に公の機関がすべてを任せて良いのか、という観念的な部分ではなく、官のウェブサイトとしての根本の話です。

現状の問題点をいくつか挙げてみます。

パーマリンクを明示していない

武雄市のドメイントップへアクセスすると、Facebookページへリダイレクトします。
ですが、ホーム以外のコンテンツは、IFrameを外して単独で表示することが可能です。Twitterボタンと「いいね!」からのアクセスに対応するためです。

なので、Twitterなどから機械的にリンクした場合は問題ないのですが、通常の方法でFacebookページにアクセスすると、IFrameなのでアドレスバーのURLは常に「FacebookページトップのURL」になってしまいます。

官のページにリンクする場面は、TwitterなどのSNSだけではありません。
武雄市は、九州北部の中核都市に強く、地震の発生が少ないことを事業向けにアピールしています。

例えば、ある企業の社長がFacebookページを通して武雄市に興味を持ち、社員や役員に「武雄市への工場建設を検討したいからこのページを参照してくれ」とURLを示す場合、どのような行動を取るでしょうか。
一般の人は「インラインフレーム」などというものの仕様はわかりません。アドレスバーからURLをコピペするはずです。

このページは深い階層にあるので、URLにアクセスした社員や役員は、どこを辿ったら良いのかわかりません。サイト内検索もできません。
市のウェブサイトが正常に機能していないことになります。

Facebookページのままでこれを回避するには、全ページの本文下に「このページにリンクする場合のURL」を、テキストボックスなどで明示するか、「別ウィンドウで表示する」などとして、単独で表示する手段を設ける必要があります。

全部のページをIFrameに投げ込めばOK、という問題ではないのです。

セキュア接続ができない

2011.08.08追記:
セキュア接続でも見られるようになりました!早い対応感謝です!

これは多くの人が指摘していますが、「セキュア接続モード」で武雄市のFacebookページにアクセスすると、不審な証明書であるとしてブロックされます。

セキュア接続下での武雄市のFacebookページ(2011年8月6日時点)

武雄市の説明によると、サーバーがSSL証明書に対応しておらず、発行準備中なのだそうです。

行政がこの手の申請をするには時間がかかりますから、公開を優先したという事情は分かります。しかし、セキュア接続やサーバー証明書のことを両方知っている人というのは多くありませんから、このページを見た人は心配になって市に電話するか、二度と訪問しないでしょう。

Facebookページ プロフェッショナルガイド」でセキュア接続の問題について書いているだけに、残念でなりません。早い対応を期待します。

印刷ができない・音声読み上げに対応していない

FacebookページをIFrameのままで印刷をしようとすると、IEではIFrameの中身が2ページ目にずれることで後半がフレームからはみだしてしまい、全コンテンツを印刷できません。

Firefoxでは印刷もできません。包括要素にoverflow:hiddenが入っているためです。
音声読み上げにも対応していないため、市内の視覚障碍者は不便を強いられることになります。

官のウェブサイトは、印刷される機会が多くなります。
私の両親もそうですが、ネットに詳しくない年配の方がウェブサイトについて調べてもらうときは、たいてい「いつでも見られるように印刷して」と言います。
ブラウザの操作に慣れていないので、紙で見るのがいちばん早いからです。

「広報で見てもらえば良い」という意見もありますが、ウェブサイトと広報では、情報の傾向が全く異なります。広報には最新の情報や普遍的な情報は掲載されません。

これを回避するには、やはりパーマリンクの項で述べたように「別ウィンドウで表示する」対応が最適でしょう。

プライバシーポリシーの内容が古いまま

プライバシーポリシーが、サーバー経由のウェブサイトで表示する場合の規格のままになっています。

少なくともFacebookでは、アカウントを所有している人の詳細な個人情報を取得できる状況になります。このため、個人情報に慎重にならざるを得ない官のページでは、

  1. Facebookアカウントがある人の公開された個人情報を取得できること
  2. 個人情報の利用には本人の許可が必要なこと

を追記しなければならないと思います。

また、炎上の可能性もゼロではないので、ソーシャルメディアポリシーもあった方が良いでしょう。

スマートフォンアプリ・携帯でメインサイトが見られない

スマートフォンアプリや携帯のアクセスでは、IFrameページを見ることはできません。

なので、現時点でのFacebookの仕様では、IFrameページはあくまで付帯的なものとして扱うか、ウォールなどから常に単独のメインサイトへ誘導しなければなりません。

まとめ

私自身は、武雄市の試みに反対はしません。

日本の行政を変える可能性を持っていますし、高いリテラシーと熱意がある職員が多いのであれば、新しいことはやってみれば良いです。IFrameなのだから取り返しのつかないことにはなりません。

ですが、Facebook+ブラウザ以外の閲覧手段をリダイレクトで遮断したことと、Web製作者の知識で回避できる対策がなされていないお粗末さに、強い疑問を持っています。

ネットリテラシーが高くない一般の人は、細かいことはわかりません。
また、Facebookでは「賛」が見えやすく「否」が目立たない傾向にあります。

小さい街であるだけに、拡散力や新しいメディアに流され過ぎることなく、弱者にも優しいウェブサイト作りを目指してほしいと願っています。

この記事を書いた人

うぇびん

愛知県豊橋市に住んでいる、荒ぶるウェブおばさん。WordPressをはじめとした各種CMSを研究するのが好き。札幌のIT企業のビットスター株式会社に所属しています。