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ホームページビルダーのWordPress連携機能が突きつける「覚悟」

ジャストシステムの本気。

老舗のウェブサイト作成ソフト「ホームページ・ビルダー」の最新バージョンで、WordPressを設置から公開まで一元管理できるようになりました。

当初は「ふーんそうなんだ」程度の感想だったのですが、詳しいレポートを読むにつれ
「これは私たちWeb制作者にとって、重要なターニングポイントになるかもしれない」
と考えるようになりました。

日本のWordPressに、何が起きているのか。
ちょっと辛口に考察してみます。

予想以上の高機能

Web制作者の、ホームページビルダーの印象は良くありません。

私も今から10年前、はじめての「ホームページ」はバージョン7で作ったものの、中途半端なCSSレイアウトの実装や素材のダサさに辟易して、自作をはじめた経緯があります(そういう意味では感謝しています)。

ですが、長年の改良や利用者の環境の向上を経て、ビルダーの品質はひじょうに高くなっているようです。
今回の「WordPressデビュー機能」に関しても、専用のホスティングサービスと連動し、サーバー契約やデータベース設定という初期段階から、アプリケーション内でカバーしています。

この記事の前半の、実際にセットアップを行っている動画が参考になります。
サイトルートの一階層下に設置するのはもちろん、初心者向けダッシュボードが追加されます。

テーマも多数選択できるのですが、外見の違いだけでなく、カスタム投稿タイプや、レスポンシブデザインまで実装しています。
さきほどの記事の後半に登場しますが、WordPress開発・技術共有で知られる制作会社がテーマを提供しているくらいですから、内容は推して知るべきでしょう。

ビルダー17の普及で起きること

ここで、WordPressを使ったウェブサイト制作にかかる一連の業務を思い出してみましょう。

  1. ヒアリング
  2. 要件定義(カスタム投稿タイプとアーカイブ構造の策定)
  3. サーバー会社の選定と仲介
  4. WordPressコアの設置
  5. デザインカンプ作成
  6. テーマの構築
  7. 原稿のリライト・大量データのインポート
  8. 定期バックアップ・バージョンアップ

「WordPressデビュー機能」は、このうちの1から6までを10,000円ちょっとでまかなってしまいます。

仕事がなくなってしまうのか?

そう考えると、私たちの仕事が奪われるのでは?という懸念がまず出てきますが、プライム・ストラテジー中村さんが言うように、それはないと思います。

「まずWebサイトを作ってみたい」という裾野の部分と、「いろいろな機能を追加したサイトを自由に作りたい」というもっと上の部分には、断絶があります。実現したいと思っているデザイン変更や機能追加が、テンプレート修正でできる範疇を超えたら、プロに頼むしかない。そういう意味で、「仕事がなくなる」ということはないでしょう。

ホームページ・ビルダー17でWordPressサイトはどこまで作り込める? 制作会社の仕事は奪われる? | Web担当者Forum

ただし、クライアントが求める最低ラインは、確実に高くなります!

これまでのように、単に「顧客の好みに合ったテーマを作ってあげる」のが「プロ」でなく、

  1. 現状のウェブサイトがある場合、何に不満を感じているのか
  2. 閲覧者を顧客にするためには、どのようなデザインで誘導すべきか
  3. 何をもってゴールとするのか、クライアントの認識に間違いはないか
  4. 担当者のネットリテラシーはどの程度なのか
  5. WordPressをより使いやすく、安全に運営するためにどうカスタマイズすべきか

といった部分まで提案する能力が求められます。

個人クライアントはどう変わる?

もうひとつ考えられることに、小規模店舗など、個人でWordPressテーマ制作を依頼してくるクライアントの変化があります。
以下は、WordPress日本語コミュニティのキーパーソン、マクラケン直子さんのブログ記事です。

Windows上でWordPressサイトを構築できるデスクトップアプリができたことで、これまでとは違った層のユーザーさんがWordPressを使い始めることが増えそうです。ホームページビルダーは、家電量販店でこのパッケージソフトを手に取ったり、書店で「できるホームページ・ビルダー」の書籍を手にすることからWordPressの世界に入ってくる方がたくさんいるというのは、パソコン操作や技術的な考え方に慣れたWeb制作者ではない人たちもたくさんWordPressを使うようになるということ。

WordPress 対応のホームページビルダー17が発売されたことの意味 – ja.naoko.cc

つまり、これまでの個人クライアントは、
「ある程度のネットリテラシーがあり、自力でWordPressを設置・運用までしているが、デザインや構成に納得が行かず相談することにした」
というケースが大半でしたが、今後は最低限のネットリテラシーしかなく、WordPressがなんなのかさえ、よくわかっていないクライアントが増えるということです。

そういった人たちには、ヒアリングのしかたも変えなければなりません。また、なにもわからないと、多かれ少なかれ
「ホームページビルダーなら1万円なのに、どうしてそんなに費用がかかるの?」
という疑問が出てきますから、「一般の人には見えない価値」を伝えられるよう、つとめる必要が出てきます。

他のCMSは消滅するのか?

WordPressがこれだけシェアを広げると、他のCMSの動向がわからなくなります。
Twitterなどでも、「MovableType最近どうなの?」といったつぶやきが散見されます。

実際には、WordPress以外のCMSは、現在もいろいろなところで採用されています。
WordPressではカバーしきれない、複雑な要件や構造を持った大企業のウェブサイトなどです。

こういったサイトの実績はあまり公開されません。また、採用されるサイト数も多くありません。しかし、一回の制作で発生する作業量、動いているお金、必要とされる人員は段違いです。

WordPressが華々しく活躍する裏側で、他のCMSは粛々と自分にできることをしているのです。
今後も、この二極化傾向は強まるものと思います。

数年後どうなる?

「一般の人には見えない価値」のひとつに、納品後のメンテナンスがあります。

WordPressは常にスパマーの攻撃にさらされるCMSですから、こまめなバージョンアップが必要ですが、「WordPressデビュー機能」は、おそらくそこまではソフトの金額内ではやってくれません。

公開後ずいぶん経って、利用者がWordPressを大幅にバージョンアップしたときに問題なく動作するのか、そもそも一般の人が「バージョンアップ」などという作業をするのか、うっかり設定を変えてしまって、カスタム投稿タイプが全滅しないか…
と、余計な心配をしてしまいます。

来年くらいから、制作会社に
「ホームページビルダーで作ったサイトがおかしくなった!なんとかして!」
という駆け込み相談が来るのかもしれません。
プロのお仕事が求められ、受注が増えるという面では、いいことですが。

これからのWordPressテーマ制作者がすべきこと

デフレの傾向が強かったWordPressテーマですが、このような流れから予想すると、制作業務の単価はおそらく上がります。

ですがそれと同時に、クライアントが制作会社であれば実績が高いところ、個人であれば信頼できる・声が大きい=宣伝力が高いところへ発注が集中し、自然淘汰が起こります。  
「テーマを作れる」程度では厳しくなってくるでしょう。


高いスキルを持つ、WordPressのエヴァンジェリストたちは、じつに楽観的です。
ですが、WordPressを収入源にしている人の多くは、そこそこテーマとプラグインを扱える程度の、ふつうのWebデザイナーです。

今後もWordPressのスキルを無駄にしたくないのであれば、自分が最も武器とするもの(ディレクション・デザイン・テーマ制作)をさらに磨き上げたり、苦手分野があればフォローできる人・会社と協業関係を築くなど、考えることはいろいろあるでしょう。

制作者それぞれに変革に備えた「覚悟」を持ち、対策を考えはじめるタイミングが、まさに今なのです。