映画「ラーメン食いてぇ!」を観てきました。
残念ながら、本日時点では上映館が少なく、旅行先の福岡で映画館に立ち寄ったくらいなのですが、この映画をできるだけ多くの人、特に「フリーランサー」「クリエイター」には、絶対に観てほしいのです。
この映画は、「たかが一杯のラーメンが呼び起こした奇跡(劇中のセリフ)」の物語です。
私のSNSアカウントは、のべ数百人のクリエイターにフォローされています。
「たかが一本のブログ記事」が、小さな奇跡を呼び起こすことを、心から願っています。
おじいちゃんのクリエイター論
この映画の見どころは「ラーメンがおいしそう」ということになっています。私自身もラーメンが大好物で、劇中ではたまらないシーンが多数出てきます。
ですが、もうひとつの見どころが、人気ラーメン店『清蘭』の店主、紅さんの「美味しいラーメンを50年間作り続けるための考え方」論です。
ネタバレになるので全容は控えますが、以下のような話が、劇中全編で語られています。クリエイターであれば超高速で頷いてしまう、背筋が伸びる話ばかりです。
ただ要素(ラーメンの具材)を足していくのではなく、要素同士を引き算して調和を取ること
最高の作品を、毎日同じ品質で維持し続けること
器用さよりも、「不器用の一心」
心から、自分が使いたい(食べたい)と思って作ること
冒頭で、ウェブクリエイターをしている次男が「クリエイティブな仕事をしている自分には、毎日同じものを作り続けるなんて無理」と言って紅さんに怒られますが、ウェブ制作もまた、毎日同じ基礎の積み重ねによって、新しいものが生まれていくのです。
赤星さんの心理
取材先のウィグル自治区で遭難した美食研究家の赤星さんが、ギリギリの状況で食べたいと願った料理が「清蘭の塩ラーメン」です。
赤星さんは狂気にも近い執念で、半年かけて生還し、日本へ帰ってきます。
原作の林先生には少し失礼になるかもしれませんが、原作の赤星さんの紳士然とした雰囲気が、私には浮いて見えていました。
映画では片桐仁がキャスティングされており、「天才だけれど、ちょっとキョドってる今どきの専門家タレント」という要素が加わりました。これによって、彼がラーメンを食べるためだけに日本を目指すことに、強い意味付けがなされています。
赤星さんもまた、フリーランサーのひとりです。フリーランサーは身内の助けを得ることができません。時として、ピンチになったときに「こいつおかしいんじゃないのか」くらいの狂ったテンションで乗り切らなければならないこともあるのです。
そうして清蘭のラーメンを食べることになる赤星さんですが、ここで不思議な「心理の混ぜっ返し」が起こります。この心の動きもまた、作品の完成、案件のローンチに近づいたときに、クリエイターが覚える感情にとてもよく似ているのです。
公式サイトによると、ウィグル自治区で赤星さんを助けることになる「日本にいたことがある遊牧民」役の俳優さんは、日本語を話すことができないながら、アテでしゃべっています。
現地の人らしく、キャストでも名前が挙げられていないのですが、彼のがんばってる様子もぜひ応援してあげてください。
マリエとコジマの美しき百合
紅さんの孫、マリエは生真面目なやせっぽち。親友のコジマは母性愛たっぷりの食いしん坊。
ふたりは学生特有の、プチ百合な友情で結ばれています。
映画では中村ゆりか、葵わかながキャスティングされ、ふたりのかわいさとラブラブぶりがこれでもかと展開されます。そっち方面ではない私でもキュンキュンしてしまったので、百合好きはぜひ。
物語の冒頭で、コジマの小さな嫉妬が、マリエを自殺未遂まで追い込んでしまいます。
コジマはそれを深く深く後悔していました。
マリエは仕事の目的の達成(究極のラーメン作りの相方になってもらう)のため、そしてもちろん愛する親友のために、全身全霊でコジマを許します。
駅でふたりが叫び合うシーンに、思わず胸がきゅーっとなってしまいました。
私は原作のコジマの、食べ物が好きで好きでたまらない仕草がとても好きなのですが、葵わかなの幸せそうな表情と豪快な食べっぷりがほんとうに良いです。
奇跡とは作るもの
この映画は「高校生の女の子が半年間でラーメン作りをマスターする」「ウィグル自治区で遭難して無事に帰る」という、ストーリーとしては荒唐無稽なものです。
私は映画マニアではありませんが、映画好きほどプロットが気になってしまうかもしれません。
ですが、この映画のコンセプトである「奇跡」というものが、偶然で「呼び起こす」ものではなく、関わる人達の強い願いとか、互いへの想いによって「作り上げられる」ものであることが、しみじみと伝わってくると思います。
さいごに、私の奇跡の話
映画の紹介はここまでです。以下は私の話です。
原作が話題になった頃、私は移住先の愛知県で挫折しかかって、県内を転々としていました。
赤星さんのように死にかけたり、マリエのように死のうとしたりはしていませんが、原作は当時の私の小さな希望になりました。
先月、仕事の関係で関わることになった福岡の知人たちに会いたくなり、旅行の予定を立てた頃、この映画が札幌で上映予定がないことを知ります。そして、何故か福岡では、旅行の最終日から封切りとなっていました。
私は旅行の日程を一日伸ばしてしまいました。のんびりしたかったのもありますが、もしも福岡に知人がいなければ、この映画を見ることはできないかもしれなかったというのは、すでに、私にとっては小さな奇跡で、「なんとしても映画館で観なければならない」と思わせるものだったのです。
福岡で、ある人は「あなたの人徳ですよ、おごらせてください」と、一日もてなしてくれました。
ある人は「あなたにはいいところがあるのだから、自信を持って」と、激励してくれました。
映画を観て、「ShinShin」の引き算の妙としか言えないすばらしい豚骨ラーメンを食べたら、原作が出た頃から続いていた、心のもやもやが晴れた気がしました。
やはり、奇跡とは、作り上げて叶えるものだと、しみじみ思うのです。
この記事を最後まで読んでくださった方にも、「ラーメン食いてぇ!」を通して、奇跡が訪れることを願っています。
どうかどうか、北海道でも上映されますように。
その暁には、もう一回観て、「いせのじょう」の生姜ラーメンをおなかに叩き込みたいです。