世界中を賑わせているチャリティ運動、「ALS アイス・バケツ・チャレンジ(ALS Ice Bucket Challenge)」。
孫さんが氷水をかぶったあたりから、運動へのもやもやが消えませんでした。
いつからこんなことになったのか?
患者・家族の思いは?
氷水をかぶる意義はあるのか?
数日間、この件について調べたこと、考察を、ブログに残すことにします。
私が指名されることはたぶんありませんが、この先も残るアーカイブを作ることで、チャレンジ以上の価値があると信じます。
以下、忙しい人は太字だけお読みください。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の疑問
どんな病気なのか
日本ALS協会では、以下のように説明されています。
筋萎縮性側索硬化症は、身体を動かすための神経系(運動ニューロン)が変性する病気です。変性というのは、神経細胞あるいは神経細胞から出て来る神経線維が徐々に壊れていってしまう状態をいい、そうすると神経の命令が伝わらなくなって筋肉がだんだん縮み、力がなくなります。
日本ALS協会 – ALSという病気の概略
なにが辛いのか
進行性のうえ、有効な治療法がありません。悪化するのは運動関係なので、意識や感覚を保ったまま(硬直による不快感や痛みも残る)、意思の疎通さえできなくなっていきます。
2009年の「クローズアップ現代」で、ALSの終末期患者と家族の苦悩がとりあげられ、書き起こしが残っています。
認知度はどのくらいなのか
発祥のアメリカよりも、日本の認知度は高いはずです。
今年の1月にはALSを扱ったドラマ「僕のいた時間」も放映されています。
手塚治虫の「ブラック・ジャック」の117話「未来への贈り物」で、ALSとエリテマトーデス(同様に難病です)の夫婦が登場します。
人気のあるエピソードで、私もこの話でALSを知っていましたが、1976年初出のうえ、短編なので説明不足や間違いがあるようです。今回はじめてきちんと勉強しました。
アイス・バケツ・チャレンジの疑問
いつはじまったのか
元々は、「アイスウォーターチャレンジ(Ice Water Challenge)」という名前でした。この記事によると、6月頃から車好きのグループが流行らせた、となっています。
「氷水をかぶるか寄付する」は一緒ですが、ALSは関係ありませんでした。ゲーム的な要素が強く、お行儀の良いものではなかったようです。
それが変わったのが7月15日です。親戚にALS患者を持つクリス・ケネディ氏が、ALS支援と結びつけたのがバズり、いつの間にかALSオンリーになりました。
なぜ氷をかぶるのか
病気の特性や、上の経緯からすると、「ALS患者の感覚を再現するため」という説は間違いです。後述する、台湾の患者も「冷たいと感じるなら気持ちいいだろう」と否定しています。
アメリカでは、氷水をかぶるのは、スポーツ選手への祝福の意味があり
- クリス・ケネディ氏がゴルファーだった
- 単に夏で暑かった
で、良さそうです。
寄付するとどうなるのか
患者と家族は、再生医療による不全箇所の治療に期待しています。京都大学の山中伸弥氏を中心に研究されている、iPS細胞が特に注目されているようです。
ですが、再生医療が実現するには莫大な国費がかかります。なので、これを支援するために寄付を、ということだそうです。
関連人物・団体への疑問
END ALSとは
積極的に活動している日本人患者に、広告プランナーの藤田正裕氏がいます。
藤田氏はすでに声も失っていますが、一般社団法人「END ALS」を立ち上げ、TEDに登壇したり、日本版「アイス・バケツ・チャレンジ」のサイト立ち上げなどを行っています。
当の患者はどのように思っているのか
敢えてURLは貼りませんが、ALS患者の家族のFacebookページを見つけました。その方はとても感謝しているようでした。
「やっと陽の目を見たんだ!」というアンソニー・カーバホール氏の訴えは胸を打ちます。
一方で、台湾では患者の辛辣な投稿が話題になっています。
もし私の病気を体験したいというのなら、
まず自分自身の体をがんじがらめに縛りあげてから
冷水を被るべきです。
そうすれば自由を他人に任せるしかなくなった子豚のような感覚を体験することができるでしょう。
でってう台湾 台湾でアイス・バケツ・チャレンジに疑問を投げかけるALS患者のコメントが話題に
以下は私的な考察になります。客観的な情報でよい場合はここで読了ください。
私的な疑問
氷をかぶる意義はあるのか
最近は消防車が放水して事故を起こすなど、明らかにエスカレートしています。
- アメリカでは祝福を願う意味、日本では滝行のような意味
- セレブが立派な服を着たままで水浸しになる「非日常感」
が、難病に興味がない層を引き込んだ功績はあるでしょうが、私は意味ないと思っています。
患者側も、諸手を上げて歓迎ではないでしょう。特に注目されすぎるのを避ける、日本人の場合は。
「認知度が上がるのはいいことだし、否定的な意見を言うことで、流れが変わってしまうことは避けたい」
というのが本音な気がします。
アンチの心理はどのようなものなのか
2chまとめなどで、たまに「偽善乙」とか「友達がいっぱいいるリア充の自慢大会だろ」といった論調があります。
この思考、ルサンチマンといいます。
- 素直に善行を行う勇気がない
- チャレンジをする以前に指名されない
- チャレンジをしたところで誰にも注目されない
- 寄付するお金の余裕もない
という制約のフラストレーションからくる反発と考えれば、爽やかにスルーできますね。
ALSだけが支援すべき難病なのか
私のもやもやのいちばん大きなものは、これかもしれません。
苦労に上下はないです。しかし、日本のALS患者は恵まれている方です。
日本ではALSをはじめ、治療困難な56疾患の患者には、国庫から治療費が支給されますが、この特定疾患になっていないため、補助も周知もされない難病が多数あります。
私が以前から気になっているのが、筋痛性脳脊髄炎(ME)という病気です。
この病気は、元々「慢性疲労症候群(CFS)」と呼ばれていて、今もこちらの方が周知されています。
患者の4人に1人が寝たきりという、ALS並みに深刻な病気なのですが、軽そうな名前がついてしまったために鬱や詐病と間違われやすく、イギリスでは間違った治療を受けた患者が死期を早める事態になっています。
たとえ治療法がある病気でも、アトピー性皮膚炎や発達障害など、精神的に苦痛を伴う病気も無数にあります。考えはじめるときりがありません。
どの病気にも可能性がある、再生医療を支援するのが、いちばんの近道なのでしょうか。
なぜALS協会とは別に、END ALSがあるのか
藤田氏には失礼ですが、END ALSがちょっぴり不透明だと感じてしまいます。
END ALSを支援すると、お金は以前からあった「一般社団法人ALS協会」ではなく、「一般社団法人END ALS」に入ります。
なぜ別団体なのでしょうか。
藤田氏はTEDで「1%の怒りはALSへの怒りである」「日本の難病支援は進行が遅すぎる」と訴えています。
彼の望むことはALS協会ではできなかった=方向性の違い
ということでしょうか。彼の雇い主が外国人というのも関係があるのかもしれません。
まとめ
結局、私たちはどうすればいいのか
もう読んでいる人はいないですよね。ログ残しが目的なのでいいです。
みんなが氷水をかぶっている間に、広島では土砂災害で多数の死傷者が出ています。
震災から三年経つけれど、まだ支援が必要です。
性犯罪の被害者は、そもそも前向きな支援を求めることができません。
たまたまFacebookで彼女らの生々しい訴えが流れてきて、軽いPTSDになりました。すいません気持ちはわかりますがヘビーなのは勘弁してください。
あちこち支援をするお金は、悲しいことに私にはありません。
数日考えて、最終的に行き着いたのは、最初にALSを支援したクリス・ケネディ氏の言葉でした。
「ただアンソニーを笑顔にしたかっただけなんだ」とクリス・ケネディはTIMEに語っている。
別にALSでも、氷水でも100ドルでなくてもよくて、
「汝の隣人を愛せよ」「Pay it forward」を忘れなければいいのだろうと思います。